炎症疾患制御分野の半谷匠客員研究員が日本癌学会奨励賞を受賞

炎症疾患制御分野 社会連携研究部門の半谷匠客員研究員(兼米国コロンビア大学Herbert Irving Comprehensive Cancer Center 博士研究員)が、2022年9月29~10月1日に開催された第81回日本癌学会学術総会において、日本癌学会奨励賞を受賞しました。同賞は、癌研究の進歩への寄与が顕著である研究を発表し、将来の発展が期待される個人に対し授与されます。 今回、半谷客員研究員が炎症疾患制御分野の特任助教時に発表された研究成果「ダメージを受けたがん細胞由来分子が 免疫応答の抑制により がんの増殖に寄与していることを発見」が評価されました。

 

 

【受賞論文】
「死細胞由来分子による腫瘍免疫微小環境制御機構の解析」

 

 

【受賞した研究の説明】
がん細胞が我々の体内において増殖するためには、宿主の免疫系による攻撃から逃れなくてはなりません。すなわちがん細胞は免疫系の活動を抑制するような機構を備えている必要があります。ノーベル賞受賞の対象となった免疫チェックポイント阻害剤はこのような抑制機構を解除するものです。一方、がん細胞による免疫逃避機構の全貌はほとんど明らかとなっていないのが現状です。

 

細胞がストレスを受けた、あるいは死んだ際にはDamage-associated molecular patterns(DAMPs)と呼ばれる分子群が放出され、免疫応答を調節することが分かっています。本研究チームはこれまでDAMPsによる炎症・免疫応答機構の解明に取り組んできました。がん内部においても大量の細胞死が起こっており、死んだがん細胞からDAMPsが放出されることが示唆されます。そこで「がん死細胞から放出されるDAMPsが免疫応答を抑制し、腫瘍増殖を促進する」との仮説を立て、新たなDAMPsの同定を試みました。

 

一連の研究により、prostaglandin E2(PGE2)およびtranslationally-controlled tumor protein(TCTP)という2つの新規DAMPsを同定し、それぞれM2 macrophageあるいはMyeloid-derived suppressor cellsと呼ばれる免疫抑制性細胞を腫瘍内部に呼び寄せることにより、がん細胞による免疫逃避機構に貢献していることを明らかにしました。さらにTCTP阻害療法はがんの増殖を抑制することが分かりました。

 

本研究は、がん細胞による免疫抑制機構に新たなパラダイムを提供するものであり、かつ新たながん免疫療法開発の基盤を提供するものと言えます。

 

 

【今後の抱負・感想】
先端研の自由闊達、学際的な環境の中、研究に邁進することができました。この場をお借りして御礼申し上げます。
今後もがん細胞と免疫細胞の相互作用の解析を追求し、基礎医学および実臨床、双方に資するような研究を進めていきたいと思います。

 

 

【関連リンク】

 

原文URL:https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/report/page_01420.html