細胞から放出される小胞量の変化を、1細胞単位で時間を追って計測する技術を開発

東京大学先端科学技術研究センターロボティック生命光学分野の服部一輝特任助教、太田禎生准教授らの研究グループは、マイクロ流体技術を活用することで、36時間という長時間にわたり、300個以上の細胞から放出される細胞外小胞をそれぞれ個別に計測する技術を開発しました。本技術により、細胞が分裂するタイミングで細胞外小胞の放出量が増えることを発見しました。本研究成果は、2022年7月7日付で、Analytical Chemistry誌に掲載されました。

 

細胞は、数百nm程度の微小な中空膜構造体(細胞外小胞)を放出することで、まわりの細胞とコミュニケーションをとっています。それぞれの細胞は、置かれた環境次第で、必要に応じて細胞外小胞を放出していると考えられます。ただ、一つの細胞から放出される細胞外小胞の量は極めて少ないため計測が難しく、個々の細胞が、どのようなタイミングで、どのくらいの量の小胞を放出しているか、詳しくは分かっていませんでした。これまでにも、各細胞からの細胞外小胞の放出量を計測する技術は開発されてきましたが、1日以上の長時間にわたる、数百細胞の同時計測は困難でした。そのため、細胞が増殖する過程など、長時間にわたる細胞応答に伴った放出量の変化を、正確かつ詳細に捉えることはできませんでした。

 

研究チームは、250 pLという微小な油中水滴内に各細胞を封じ込め、その中に放出・蓄積される「光る細胞外小胞」の量を高感度に追跡することで、各細胞から細胞外小胞が多く放出されるタイミングを観測することに成功しました。具体的には、細胞を含んだ直径80 μm程度の球状の微小空間を、1 cm四方のマイクロ流体デバイスの中に大量に敷き詰めることで、300個以上の細胞一つひとつからの細胞外小胞放出を36時間にわたって計測することを可能にしました。放出された細胞外小胞の量は、蛍光タンパク質を細胞外小胞に搭載することで計測しています。この新たな計測方法を用いることで、各細胞が一つの細胞から二つの細胞へと増殖する一連の過程での細胞外小胞放出を、連続的に計測することができました。その結果、細胞が一つの細胞から二つの細胞へと分裂するタイミングで、細胞外小胞の放出が一時的に増すことが分かりました。

 

本計測技術は、細胞が分化する過程など、細胞がダイナミックに変化するさまざまな過程での細胞外小胞放出の動態を捉えることを可能にし、細胞外小胞の新たな生物学的な意義解明に向けて有用となります。加えて、細胞外小胞放出の新たな制御機構を見出すことで、細胞外小胞が関与する疾患に対し、新たな予防・治療法の開発につながることが期待できます。

 

服部特任助教は次のようにコメントしています。「一つひとつの細胞の挙動をつぶさに観察することで、それぞれの細胞が細胞外小胞を放出するスピードは、時事刻々と変化することが分かってきました。この新しい計測技術が、さまざまな形で活用され、今まで捉えられなかった現象が明らかになっていくことを期待しています」

 

本研究は、CREST(細胞外微粒子領域、課題番号:JPMJCR19H1)などの支援により実施されました。

 

 

発表雑誌

著者名:
Kazuki Hattori, Yuki Goda, Minato Yamashita, Yusuke Yoshioka, Ryosuke Kojima, and Sadao Ota
タイトル:
Droplet Array-Based Platform for Parallel Optical Analysis of Dynamic Extracellular Vesicle Secretion from Single Cells
雑誌名:
Analytical Chemistry
オンライン掲載日:
2022/7/7
DOI:
10.1021/acs.analchem.2c01609

 

細胞外小胞放出の経時的1細胞計測法の概要

細胞外小胞放出の経時的1細胞計測法の概要 蛍光を発する細胞外小胞を放出する細胞を、直径80 μmの微小な油中水滴内に封入。この微小水滴を微小な柱が整列したマイクロデバイスの中に整列させることで、それぞれの微小水滴の位置を固定し、同一水滴を繰り返し計測。細胞培養に適した環境を保つことが可能な顕微鏡にマイクロデバイスを設置することで、長時間にわたる観察が可能になった。© 2022 服部一輝, Created with BioRender.com

原文URL:https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/report/page_01398.html