東京大学先端科学技術研究センターロボティック生命光学分野の鵜川昌士特任研究員と太田禎生准教授は、多数の細胞を三次元画像により形態解析が可能なイメージングフローサイトメトリーの技術を開発しました。本研究成果は、2022年6月5日付でSmall Science誌に掲載されました。
大量の細胞をその形態に基づいて分析する技術は、細胞の集団の中から希少な種類や状態を発見することができるため、細胞生物学や免疫学の研究や、血液を用いた医療診断において重要となっています。そのために最近ではイメージングフローサイトメトリーという、細胞を流しながら撮影することによって、多数の細胞の画像を取得して解析できる手法が発展してきました。しかし、これまでイメージングフローサイトメトリーでは、二次元画像を撮影するものが主に開発されてきましたが、奥行方向の情報を持たないため、細胞核や細胞形態の三次元分布や、細胞内小器官の配置情報など、重要な立体情報を解析するのは困難でした。また、三次元画像の取得には時間がかかるため、大量の細胞画像を迅速に取得することが難しく、大きな課題となっていました。
研究者らは、三次元顕微鏡の一種であるライトシート顕微鏡技術を用いて、流体中の細胞を並列に画像取得することで、細胞の三次元画像を高速・大量に取得できるイメージングフローサイトメトリー技術を開発しました。まず流路中の細胞を撮影するために、流路断面の平面を高速で撮影できる顕微鏡を作製しました。その上で、この顕微鏡上で、細胞を並列化させて等速かつ無回転で移動できる流体技術を開発しました。この二つの技術を組み合わせることで、毎秒2,300細胞という世界最速の流体中における三次元細胞撮影を行うことが可能となりました。さらに、多数の三次元画像を迅速に処理できる新たな画像解析手法を開発し、5分で取得した40万細胞の三次元画像の形態情報を解析することに成功しました。
本研究により、実用的な細胞解析速度で三次元のイメージングフローサイトメトリーが可能であることが実証されました。従来は見落としていた三次元の形態情報に基づく細胞の種類や状態の発見や、三次元細胞画像によるより正確な細胞形態解析に基づいた、多様な疾患の診断などに繋がると期待されます。
鵜川昌士特任研究員は次のように述べています。「これまで二次元のイメージングフローサイトメトリーの技術もいくつか開発してきましたが、撮影対象の細胞は三次元の物体であり、二次元画像では取得できる情報量に限界を感じていました。そこで今回は三次元のイメージングフローサイトメトリーの技術の開発に着手したのですが、光と音と流体分野の技術をうまく組み合わせた試行錯誤の結果、今までにない数での細胞の三次元解析が可能となり、非常に面白い技術になったと考えています」
本研究は、JST CREST JPMJCR19H1、JSPS科研費JP21H04636とJP21H00416及び、立石科学技術振興財団、野口研究所、内藤記念科学振興財団、上原記念生命科学財団、ホワイトロック財団、キヤノン財団、千里ライフサイエンス振興財団、セコム科学技術振興財団、UTEC-UTokyo FSI Research Grant Programなどの支援により実施されました。
発表雑誌
- 著者名:
- Masashi Ugawa and Sadao Ota
- タイトル:
- High-Throughput Parallel Optofluidic 3D-Imaging Flow Cytometry
- 雑誌名:
- Small Science
- オンライン掲載日:
- 2022/6/5
- DOI:
- 10.1002/smsc.202100126