【発表資料】自動化4検体プール方式によるPCR検査の有効性を証明

1.発表者

田中 十志也
(東京大学先端科学技術研究センター 特任教授)
大澤  毅
(東京大学先端科学技術研究センター 特任准教授)

2.発表のポイント

  • 新規のウイルス不活化剤にて不活化した陽性唾液検体についてRNA精製不要のOne step RT-PCR法(注1)による自動化4検体プール方式のPCR検査を構築し、実証研究を実施した。
  • 陽性検体48プール検体を含む126プール検体を用いたPCR検査において陽性一致率93.8%で偽陽性は認められず良好な結果が得られた。
  • わが国でPCR検査に汎用されている唾液検体およびOne step RT-PCR法を用いた効率的な検査システムの実用化に資する成果である。

3.発表概要

東京大学先端科学技術研究センターニュートリオミクス・腫瘍学分野の大澤毅特任准教授、田中十志也特任教授らの研究グループは、新規のウイルス不活化剤にて不活化した陽性唾液検体についてRNA精製不要のOne step RT-PCR法による自動化4検体プール方式を構築し、本手法によるPCR検査の有効性を明らかにしました。

新型コロナウイルス感染症の効率的な検査方法として世界的に進められているプール方式のPCR検査では、ぬぐい液(鼻腔、咽頭、鼻咽頭)を含んだ輸送培地を数検体プールし、ウイルスRNAを精製した後にRT-PCRを行っています。一方、わが国の多くの衛生検査所で採用されている唾液検体、RNA精製不要のOne step RT-PCR法を用いたプール方式のPCR検査の精度評価は明らかでありませんでした。本研究の実証研究により、唾液検体およびRNA精製不要のOne-step RT-PCR法によるプール方式PCR検査の有効性が示されたことは、効率的なPCR検査の拡充に寄与する成果であると考えられます。

本研究は、(AMED)国立研究開発法人日本医療研究開発機構のウイルス等感染症対策技術開発事業(早期・大量の感染症検査の実現に向けた実証研究支援)課題:安全・効率的な大量感染症検査システムの構築とプール方式の実証研究(研究開発代表者:大澤毅)にて支援をうけています。

4.発表内容

新型コロナウイルスSARS-CoV-2 感染症(COVID19)拡大の背景には高い伝播率と無症候感染者率があげられ、流行を的確に予測し感染拡大を防止するためには安全で簡便かつ迅速な検査方法の構築と大量検査に資する安価なサーベイランスシステムの実装が急務です。これまでに大澤特任准教授のグループは、(株)医学生物学研究所、(株)島津製作所、パーキンエルマーなどの企業と連携しPCR 検査の自動化と4 検体プール方式の構築を行ってきました。

本研究では、PCR反応を阻害しないウイルス不活化剤にて処理した陽性唾液廃棄検体およびボランティア陰性検体を用いて4検体プール方式PCR検査の実証研究を実施しました。その結果、陽性検体48プール検体を含む合計126プール検体を用いたPCR検査の感度は0.938、特異度は1、偽陰性率は0.063、偽陽性率は0、陽性的中率は1、陰性的中率は0.963と良好な結果が得られました(図1)。

図1 プール検体におけるCt値(注2)の変化
図1 プール検体におけるCt値(注2)の変化
ヌクレオカプシドタンパク質(N遺伝子)のN1領域(左図)およびN2領域(右図)の通常検査(Single)および4検体プール(4 pool)した場合のCt値の変化を示した。青の帯で示している範囲はウイルスが1反応あたり10~20コピー相当が含まれているCt値の範囲、橙の帯で示している範囲はウイルスが1反応あたり5~10(N1領域)または10コピー以下(N2領域)の範囲を示してある。

陰性となった3プール検体は個別PCR検査において1反応あたり10コピー未満のウイルスを含んだ陽性検体でした。また、個別PCR検査の結果から、10~20コピー/反応のウイルス量を有する陽性検体を含むプール検体では、SARS-CoV-2のヌクレオカプシドタンパク質(N遺伝子)内のN2領域(FAM)(注3)が検出限界以下になった例が9プール検体中4例認められましたが、N1領域(ROX)(注3)では全例が陽性判定であり、偽陰性例は認められませんでした。

研究グループはPCR検査の社会的検査の拡充および検査試薬等の医療資源の不足に対応するため、①採取検体を安全かつ直接PCR検査できるウイルス不活化剤の開発、②SARS-CoV-2とインフルエンザを同時検出できるOne-step PCR法の開発、③プール方式PCR検査の自動化、④サーベイランス用の多検体自動化処理検査システムの設計・構築を目指しています。今回、本研究で実施したプール方式の有効性が示されたことにより、自動液体処理装置を活用した自動化プール方式によるPCR検査の実用化が期待されます。

5.研究に関する問い合わせ先

東京大学先端科学技術研究センター
特任教授 田中 十志也(たなか としや)

6.用語解説

(注1)One step RT-PCR法:
逆転写(RT)反応による1本鎖cDNA合成とPCR反応を一つのチューブやウェルの中でまとめて行う方法。簡便で、コンタミネーションのリスクが少ない。

(注2)Ct値:
Threshold Cycle(Ct)値は、リアルタイムPCR反応時に標的遺伝子領域の増幅に伴い放出される蛍光シグナルが閾値(Threshold Line)と交差する時のサイクル数を表したもの。

(注3)FAM、ROX:
加水分解プローブに標識する蛍光色素。ヌクレオカプシドタンパク質(N遺伝子)のN2領域を増幅させるPCRプライマーのほぼ中央に相補結合する加水分解プローブには「FAM」、N1領域の加水分解プローブには「ROX」が結合している。ポリメラーゼの伸長によってDNA合成が進み加水分解プローブの位置に来ると、エキソヌクレアーゼ活性によって相補結合しているプローブが分解され蛍光色素が放出されて、PCR装置によって検出される。

7.添付資料

 

(原文URL:https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/report/20210205.html)