シングルセル解析と1分子RNA FISHにより心不全進展過程の空間情報を解明

心不全は、高血圧、心筋梗塞、弁膜症(心臓の弁の異常により心臓の中で血液の逆流や渋滞が生じる疾患)等が原因となり、心臓の機能が低下する疾患です。心不全による5年生存率は50%と予後は決してよくありません。

心臓に高血圧などのストレスがかかると、心機能を保持するために代償的に心臓は肥大しますが、ストレスがさらに持続すると、心臓は機能低下を引き起こし、心不全を発症します。

しかしながら、心肥大から心不全に至る過程で、個々の心筋細胞がどのようにストレスに応答するかの詳細なメカニズムは明らかではありませんでした。

今回、ゲノムサイエンス分野 協力研究員の佐藤真洋(千葉大学医学部附属病院 循環器内科)、野村征太郎(東京大学医学部附属病院 循環器内科)はシングルセルRNA シークエンス(ひとつひとつの細胞の全遺伝子の発現量を定量解析する手法)と1分子RNA FISH(組織において1細胞レベルで1分子RNAの発現を定量解析する手法)を用いて、心不全モデルマウスの心筋細胞の遺伝子発現パターンについて調べました。

その結果、

  • 心不全進展過程において、ストレスにより発現上昇するMyh7遺伝子の陽性心筋細胞は空間的に不均一に存在している
  • Myh7陽性心筋細胞のサイズは陰性細胞と比較して小さい。
  • Myh7陽性心筋細胞は、エネルギー代謝を制御するミトコンドリア関連の遺伝子発現が低い

ことを明らかにしました。

昨年11月、Nature Communicationsに個々の心筋細胞の圧負荷に対する応答が不均一であることを発表し、これらの成果は、さらに空間的情報の不均一性が存在することを明らかにしました。(リンク

心不全の進展過程を1細胞レベルで検証しただけでなく、今後の心不全医療の革新につながると期待されます。

本研究は本学附属病院 循環器内科の小室一成教授との共同研究により行われたもので科学雑誌Journal of Molecular and Cellular Cardiologyにて公開されました。

雑誌名:Journal of Molecular and Cellular Cardiology

論文タイトル:High-throughput single-molecule RNA imaging analysis reveals heterogeneous responses of cardiomyocytes to hemodynamic overload

著者: Satoh M⁠, Nomura S, Harada M, Yamaguchi T, Ko T, Sumida T, Toko H, Naito AT, Takeda N, Tobita T, Fujita T, Ito M, Fujita K, Ishizuka M, Kariya T, Akazawa H, Kobayashi Y, Morita H, Takimoto E, Aburatani H, Komuro I