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シグナル伝達及び分子動力学

准教授
山下 雄史
Associate Professor Takefumi YAMASHITA
専門分野: 理論分子科学、特に分子動力学計算と電子状態計算に基づく生体分子科学
研究内容: タンパク質機能の理論的解析、生体内化学反応の理論的解析

分子シミュレーションで解き明かす生命現象の素過程

分子レベルで見た生命現象は、広い意味での化学反応(化学結合の組み換えだけでなく、タンパク質の構造変化やドッキングのような変化も含む)の巧妙で複雑なネットワークに見えます。この化学反応ネットワークの一部に異常が生じることで、生物は様々な病気を引き起こします。このことから、個々の化学反応の異常を引き起こすもしくは異常を回避するメカニズムを予言することが非常に重要であると考えられます。私は、病気に関わる生体分子(特にガンを誘発するタンパク質)の振る舞いを理論計算に基づき分子レベルで解明していくことを研究の目的としています。

こうして得られる知見は薬をデザインするヒントになりえるので、創薬分野にも大きなインパクトがあります。実験グループとの連携により、理論面から直接的かつ積極的に創薬分野への貢献を目指します。

これからの課題

タンパク質の機能を調べるために、数万原子から構成される系に対して運動方程式に従う時間発展を1億ステップ以上(数百ナノ秒スケール)も計算する必要があります。現在、2010年度に導入されたスーパーコンピューターを活用することで、タンパク質の動態を調べています。

しかし、まだシミュレーションですべてを容易に明らかにすることができるようになったわけではありません。古典的な分子動力学計算法だけでは、世界最速の計算機をもってしても解決できない問題が多く残されているのです。このような限界を解消するために、(1)有効な計算モデルの確立(2)効率的なサンプリング技法の確立が必須になると考えています。

(1)の例として、化学結合の組み換えが起こる化学反応の計算があります。現在、広く使われている経験的なモデル力場では、化学結合が固定されており組み替えを扱うことが出来ません。一方で、電子状態をまともに計算すれば、結合の組み替えは記述できるようになりますが、計算コストは膨大になり生体分子に対して信頼性のある計算をすることは不可能になります。1つの解決策として、経験的な力場を元にして反応を記述できる新しい力場モデルを作成するというものがあります。実際に、このような力場モデルを脂質2重膜面でのプロトンの振る舞い(原著論文[1])やシトクロームc酸化酵素(論文準備中)に応用し成果を出しています。

(2)の例として、抗原抗体のドッキングにおける自由エネルギー変化の評価というテーマがあります。これは、抗体が抗原を捕捉する強さを表す直接的な指標であり、抗体薬のデザインにとり重要な情報です。この計算には、抗原抗体の解離状態と結合状態を“満遍なく”サンプルすることが必要となります。しかし、世界最速の専用計算機でもミリ秒オーダーの振る舞いをシミュレーションするのが限界でありますから、古典的な分子動力学では“満遍なく”サンプルするのは不可能です。そこで、系にバイアスポテンシャルを掛けてサンプルしにくい状態でも重点的にサンプルする方法の開発が必須になります。すでにいくつかの方法(例えば、論文[1]でも使用しているアンブレラサンプリング法)が提案されていますが、どれも万能とはいえません。個々の問題に応じて方法を使い分ける必要があり、場合によっては独自に新しい方法を開発することが必要です。

既存の方法を適用するだけでなく、以上のような方法論の開発にも化学・物理の知識に基づき取り組んでいきます。これは、応用科学・基礎科学の両方の面から重要な取り組みであると考えています。

原著論文

  1. 著者 山下雄史、Gregory A. Voth
    題名 Properties of hydrated excess protons near phospholipid bilayers
    雑誌 Journal of Physical Chemistry B 114, 592-603 (2010)
  2. 著者 山下雄史、高塚和夫
    題名 Hydrogen-bond assisted enormous broadening of infrared spectra of phenol-water cationic cluster: An ab initio mixed quantum-classical study.
    雑誌 Journal of Chemical Physics 126,074304 (15pages)(2007)
    備考 Selected for Virtual Journal of Biological Physics Research of APS/AIP
  3. 著者 山下雄史、高塚和夫
    題名 Phase quantization of chaos and the role of the semiclassical amplitude factor
    雑誌 Progress of Theoretical Physics supplement 166 56-69 (2007)
  4. 著者 高塚和夫、高橋聡、コー・ヤン・ウェイ、山下雄史
    題名 Energy quantization of chaos with the semiclasiical phase alone
    雑誌 Journal of Chemical Physics 126, 021104 (4pages) (2007)
  5. 著者 河合信之輔、藤村陽、梶本興亜、山下雄史、チュンビウ・リ、小松崎民樹、戸田幹人
    題名 Dimension reduction for extracting geometrical structure of multidimensional phase space: Application to fast energy exchange in the reaction O(1D)+N2O→NO+NO
    雑誌 Physical Review A 75 022714(11pages), (2007)
  6. 著者 河合信之輔、藤村陽、梶本興亜、山下雄史
    題名 Quasiclassical Trajectory Study of O(1D)+N2O→NO+NO: Classification of Reaction Paths and Vibrational Distribution
    雑誌 Journal of Chemical Physics 124, 184315(9 pages), (2006)
  7. 著者 山下雄史、加藤重樹
    題名 Resonance Raman spectra of NOCl: Quantum dynamics study
    雑誌 Chemical Physics Letters 405, 142-147 (2005)
  8. 著者 山下雄史、加藤重樹
    題名 Excited-state electronic structures and dynamics of NOCl: A new potential function set, absorption spectrum, and photodissociation mechanism
    雑誌 Journal of Chemical Physics 121, 2105-2116 (2004)
  9. 著者 山下雄史、加藤重樹
    題名 Regularity in highly excited vibrational dynamics of NOCl(X1A’): Quantum mechanical calculations on a new potential energy surface
    雑誌 Journal of Chemical Physics 119 4251-4261 (2003)