
高齢化社会が進むにつれ、脳梗塞、心筋梗塞の一因となる血栓症、 動脈硬化症及び病的血管新生に起因する悪性癌での死亡率は年々増加する傾向にある。 これらの疾病の根本となる血管疾患の機序を解明するには、血流、炎症性因子の存在、微小環境、 さらにはこれらの刺激に応答する血管内皮細胞での遺伝子発現制御機構を綿密に解析していくことが重要である (図 1)。
血管内皮細胞の動的制御を行う役者としてサイトカインや増殖因子の存在が示唆されている。 そこで、初代血管内皮細胞を用いて、thrombin、VEGF、TNF-α 存在下での遺伝子の変動とその制御機構をマイクロアレイや 分子生物学的手法を用いて詳細に解析を進めている。 特に VEGF, Thrombin signalにおいては早期に共通して転写因子 NFAT, Egr, NF-κB の活性化が生じ(アクセル)、 そのブレーキ役としてダウン症候群関連因子 (DSCR-1), NAB, I-κBα が一過性に強力に誘導されてくること、 特に DSCR-1 を構成的に発現することによって、血管新生、炎症を含む内皮活性化、 腫瘍の進展を阻害できることを見い出し報告している(図 2, 3 例)。 さらにこれらfeedback system を含めた内皮細胞の厳密な制御機構を詳細に解析すると共に、 遺伝子発現網羅的解析から新たな制御の中心を担う因子を同定し、その機能解析を進めることで、 血管内皮細胞の動的制御システムを総合的に解釈していきたい。
近年、各臓器の微小環境要因によって血管内皮細胞が調節を受け、適応したphenotypeを示すことが明らかにされた。 また全ての血管内皮に異常をもたらすような血管病は知られておらず、限局された部位での血管異常がもとになっている。 このことから内皮細胞選択的に発現する遺伝子の制御機構を in vivoで解析することは血管疾患の仕組みを明らかにする上で大事である。 既に内皮細胞特異的な Flt-1、Tie-2、VWF の遺伝子プロモーターをマウスゲノムの特定 Hprt 部位に組み込んだ ターゲットトランスジェニックマウスは作製し発表しているが、現在 VCAM-1, DSCR-1 に関し、 各臓器での遺伝子制御領域の活性を評価するため、研究を進めている。 この方法は、位置効果とコピー数を制御できる点で優れた特徴を有している。 これらの研究に際しては、ハーバード大学分子血管医学部門との共同研究も進んでいる。

図1 治療標的としての血管内皮動的制御機構

図2 Thrombin 誘導遺伝子における NFAT, NF-κB 依存性クラスター

図3 NFAT/DSCR-1, RelA/I-κBα を介したフィードバック制御
これは Harvard 大学の Dr. William C. Aird との共同アイデア、共同執筆による review です。 血管内皮細胞での遺伝子発現に関し、活性化アゴニスト、転写因子、機能の別に、また血管内皮細胞特異的発現を示すものは、 その領域と in vivo での発現 (heterogeneity) について過去 4 年間の文献からまとめてみました。
動的な内皮細胞についての研究が盛んに行われていることが多大な reference から理解していただけると思います。
原著論文
Minami, T, and Aird, W.C.
Endothelial cell gene regulation.
Trends. Cardiovasc. Med. 15, 174-84 (2005)
スペインの calcium-calcineurin 研究の大家である Juan Redondo との共同研究ベースで 進めていた neuron cell における ダウン症候群関連因子 (DSCR-1) 誘導に関する論文です。 膜の脱分極に伴うカルシウムのシグナルが神経系の細胞でも NF-AT の核内移行、そして DSCR-1 の発現誘導を引き起こします。 DSCR-1 promoter の重要部位は我々の内皮細胞の系と共通でした。 LSBMで作製した DSCR-1 抗体でも内藤教授、Reid 助教授が neuron にDSCR-1 が高く発現することを認めていますし、 今後その機能解析が楽しみです。
原著論文
Cano, E., Canellada, A., Minami, T., Iglesias, T., and Redondo, J.M.
Depolarization of neural cells induces transcription of the Down sundrome critical region 1 isoform 4 via a calcineurin/nuclear factor of activated T cells-dependent pathway.
J. Biol. Chem. 280, 29435-43 (2005)
Minami, T, Horiuchi, K., Miura, M., Abid, R., Takabe, W., Kohro, T., Ge, X., Aburatani, H., Hamakubo, T., Kodama, T., and Aird, W.C. VEGF- and thrombin-induced termination factor, down syndrome critical region-1, attenuates endothelial cell proliferation and angiogenesis. J Biol Chem. 279, 50537-54 (2004) VEGF や thrombin で血管内皮細胞に活性化刺激を行うと、 早期に一過性にダウン症候群関連因子 (DSCR-1) が強く誘導されることを、網羅的アレイから見いだしました。 かつこの因子が NF-AT と GATA の協調的作用によって誘導され、この因子の安定的な発現によりCn-NFAT pathway が shut off されることすなわち DSCR-1 が自己終息シグナルの player として機能していることを見いだしました。 また DSCR-1 安定的発現により、VEGF 依存性の増殖、血管新生活性が減弱することを報告しています。 JBC の paper of the week に選ばれました。
原著論文
Fujino T, Asaba H, Kang MJ, Ikeda Y, Sone H, Takada S, Kim DH, Ioka RX, Ono M, Tomoyori H,
Okubo M, Murase T, Kamataki A, Yamamoto J, Magoori K, Takahashi S, Miyamoto Y, Oishi H,
Nose M, Okazaki M, Usui S, Imaizumi K, Yanagisawa M, Sakai J (corresponding author), and Yamamoto TT
Low-density lipoprotein receptor-related protein 5 (LRP5) is essential for normal cholesterol metabolism and glucose-induced insulin secretion.
Proc Natl Acad Sci U S A, 100, 229-234. (2003)
生活習慣病は肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病、加齢などを伴いメタボリックシンドロームとも呼ばれ、 心筋梗塞、脳梗塞など血管病変を主とした病気の主原因である。 核内受容体の一つPeroxisome Proliferator-Activated Receptor δ のアゴニストによる活性化により、 骨格筋での脂肪のβ酸化が亢進し、高脂肪食による肥満・糖代謝異常を劇的に改善することを示し、PPARδが治療薬の標的となることを示した。 Genechip解析によりPPARδの活性化により、脂肪酸トランスファー、脂肪酸b酸化、エネルギーを熱として放出する蛋白(UCP)などが 骨格筋細胞で誘導された。 このことから核内受容体PPARδを刺激することで、たとえ飽食下であっても脂肪蓄積ではなく燃焼・消費するための遺伝子発現が誘導され、 細胞に蓄積された脂肪が消費されることが推定された。 そこでPPARδの作動薬を高脂肪食下の動物に投与したところ、白色脂肪細胞を中心に貯蔵されている中性脂肪は分解され、 劇的に肥満・耐糖能・インスリン感受性を改善した。 私たちはPPARδの生活習慣病治療薬への適応を提示した。
原著論文
Tanaka, T., Yamamoto, J., Iwasaki, S., Asaba, H., Hamura, H., Ikeda, Y., Watanabe, M., Magoori, K., Ioka, R. X., Tachibana, K., Watanabe, Y., Uchiyama, Y., Sumi, K., Iguchi, H., Ito, S., Doi, T., Hamakubo, T., Naito, M., Auwerx, J., Yanagisawa, M., Kodama, T., and Sakai J.
Activation of Peroxisome Proliferator-Activated Receptor d Induces Fatty Acid b-oxidation in Skeletal Muscle and Attenuates Diet-Induced Obesity and Insulin Resistance.
Proc Natl Acad Sci U S A, 100, 15924-15929 (2003).
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