システム生物医学のもっとも重要な考え方は、多数の原因のかかわる病気の治療は、コレステロールや血圧という一つの数値の是正でなく、制御系がきちんと働きだすようにするということである。インシュリンをたくさん使いすぎるとおこる低血糖が致命的なように、コレステロール合成阻害剤のスタチンを過剰に投与すると横紋筋融解症がおこる。インシュリン抵抗性のある場合には、ただインシュリンの量をふやすより、抵抗性の原因を取り除くことが必要である。
血圧でも様々な降圧剤の効果は同じではない。血圧というのは運動や体位や興奮などで変動する。しかし全体としては変動の基準となる標準的な血圧がある。血圧の治療は、この標準値があがってしまった場合に是正するのが目的であろう。一般的に用いられている、カルシウム拮抗薬や、アンギオテンシン阻害剤が、血圧制御系にどう作用しているかの全体をとらえるomicsでの解析はまだ始まったばかりである。
免疫の病気では治療薬の選択性が望まれている。副腎皮質ステロイドホルモンや、非ステロイド系の抗炎症剤が用いられるが、それぞれの病気にかかわるメカニズムは思ったより複雑で、病気毎に異なるように考えられて来た。炎症のシグナル伝達からTNFαやその経路の治療薬が開発が進んでいる。しかし副腎ステロイドホルモンは、免疫不全、糖尿病、骨粗鬆症、胃かいようなど様々な副作用をもたらす。新たに開発されたTNFαモノクローナル抗体も結核感染の再燃などをもたらすことがわかってきた。
ゲノム解読からさらに核内受容体など沢山の転写調節に作用する医薬品の開発も進んでいる。しかし転写因子の結合サイトはゲノム上に2万か所以上ある場合があり、極めて多様な効果がおこる。そこで病気の標的に焦点をしぼった選択性の高い医薬品の開発がのぞまれる。
システム生物医学は、omicsを持ちいて、病気にかかわる細胞をcell
mapから明らかにし、そこでの制御系の重なりを解き明かすために有力な手段となるであろう。
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