メタボロームとよばれる細胞全体の代謝産物の流量解析から、細胞において代謝経路の大半は、少量の代謝産物しか流れておらず、一部に高い流量の経路がある。この例として、大腸菌でのメタボローム解析を図序−15に示す。栄養状態などが変化すると、この高い流量の経路を担う酵素群が、一斉に抑制または誘導されて、流量が変わる。

こうした調節はコレステロールや様々な栄養成分を感知するセンサーからの転写因子の活性調節で行われる。
わが国は、男女ともに世界的に非常に高い平均寿命を示して来た。欧米諸国と比べて、心筋梗塞など虚血性心疾患が少ないことも大きく影響している。心筋梗塞や脳血管障害はサイレント病として長い年月をかけて進展し、最後の血管閉塞とともに重篤な症状が現れる。
コレステロールや糖の代謝の異常が、これらの血管疾患の形成に大きくかかわっている。わが国においても、急激な生活習慣の変化から、血液中のコレステロールの標準値は上昇し、一方、アメリカではコレステロール低下のキャンペーンなどの効果で低下し、ほぼ同じレベルになりつつある。こうした中で、わが国にも、糖尿病や高脂血症が増加してきている。カロリー過剰と運動不足から、こうした糖、脂質の異常と、肥満、高血圧が重なり、「代謝症候群」とよばれる状態がおこり、血管疾患につながる。
人体内での糖や脂質代謝は、さまざま中間代謝の制御が重なりあって複雑な調節系が作られており、その相互の関係を明らかにすることが求められている。
図序−15(16)に示すように代謝制御系としてのインシュリンシグナルと糖分、脂質、肥満の制御系の重なりは転写因子群、核内受容体やSREBPにより担われる。コレステロール合成阻害剤はSREBP群に作用する。フィブラートやグリタゾンは核内受容体に作用する。ただ単にコレステロールなどの数値を是正することよりも、代謝制御の悪循環を終わらせ、制御系が適切に働くことを目標とした治療戦略が求められる。
もう一つの重要な課題は、代謝障害がどのように血管系や神経系の組織障害につながるかである。細胞膜での免疫反応や炎症反応のシグナルにはコレステロールにとんだ膜ドメインのラフトが重要である。コレステロール合成阻害剤のスタチンは血管内皮細胞ではracなどの低分子量G蛋白質のラフトへの集積を抑制して遺伝子発現を変化させていることがトランスクリプトーム解析から推定されている。アルツハイマー病の進展にかかわるγセクレターゼもラフト上に形成される。代謝の異常と、炎症や、組織障害のかかわりの理解がサイレント病として進展する生活習慣病の予防の上では重要になる。

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