調節制御は細胞で統合されている。200種類以上の細胞が人間の体の中で知られているが、それらは3000以上の制御系の中での、特定のサブセットの制御系だけを働かせ、多くの制御系を抑制することにより異なった制御の仕方を示す。
図序−12に示すようにノーベル賞を受賞したシドニー・ブレンナーらの研究で線虫では約1000個の細胞の系譜が全部わかっている。人間の体の中で、様々な細胞が分化し、変化していく状態を地図のようにあらわしcell mapとよぶ。それぞれの細胞がcell
mapのどこに位置づけられるかが大事である。
人間の細胞で実験をすると、実験毎に異なった結果がでることがよくある。3万個の遺伝子の活性化されている状態を見ると、同じように見える細胞でも実際の活性化の状態は大きく違っている場合のあることがわかってきた。細胞の状態が違うと、同じ刺激を与えても出てくる結果は大きく異なる。トランスクリプトームの解析により細胞の状態はかなり正確に定義される。癌細胞といっても同じではなく、病気の進行につれ、トランスクリプトームの様子が大きく変わって行く。細胞の状態の正確な評価が治療に大事である。
幹細胞とよばれる、様々に分化できる可能性をもった細胞から、細胞は筋肉や神経や血管や様々な臓器に分化していく。マスタージーンとよばれる遺伝子が活性化されると、細胞の制御系がきまった方向で働く。こうした制御の仕組みは通常のネガティブ・フィードバックとはことなり、ポシティブ・フィードフバックとよぶ。ネガティブというのはセンサーから抑制的に働くシグナルが働くのに対し、ポジティブ・フィードバックでは作られた蛋白が、それ自体の遺伝子を活性化するように働く。
ポジティブ・フィードバックは細胞を一つの方向に向けるのには有効だが、自分で自分を活性化するため抑制がかかりにくい特徴がある。細胞が分化すると一般には増えるスピードは制御される。それが制御されないのが癌である。
人間の体の中には、幹細胞、プロジェニター細胞とよばれる、分化の途中の段階の細胞があって、それがいろいろな臓器にフレッシュな細胞を供給していることがわかっている。Cell
mapはこうした体の細胞の見取り図をあたえる。システム生物医学はcell
mapをトランスクリプトーム解析などから精密にしあげ、老化や病気にともなっておこる機能低下を防ぐ治療の基礎となる。

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