Omicsを用いてDNA、RNA、蛋白の情報が膨大に集まると、それを理解する方法が鍵となる。3万個の遺伝子の変動を理解するだけでも大変である。本書(シリーズ)では最初にトランスクリプトーム解析をのべる。それは現在、実際に一人の研究者または一つの研究室でできるのがDNAマイクロアレイによるRNAの系統的測定、すなわちトランスクリプトーム解析であることによる。図序−4にしめすDNAマイクロアレイはRNAに相補的なオリゴヌクレオチド配列をチップの上に固定化したもので、RNAサンプルを蛍光標識しておいて、基盤とハイブリダイズさせることにより、数千から数万種類のRNAの量を測定する方法である。

ゲノムが生命の設計図なら、トランスクリプトームは生命の注文書であり、プロテオームはいわば製品群といってもいいだろう。トランスクリプトーム解析会社では財務監査でみるのは設計図でも製品でもなく、注文書などの帳簿を見るのに似ている。RNAの量を測ることにより活性化されている遺伝子がわかる。
図序−5に示しているのは、油谷らにより報告された、肝臓癌の患者の切除された肝臓での癌の部分と正常部分とをDNAマイクロアレイで3万個のmRNAの量を比較した結果である。もし肝臓癌の部分と、そうでない肝臓でRNAの発現の量が同じなら45度の対角線に並ぶことになる。
もし癌になると遺伝子が活性化されてRNAの量が増えると45度より左上になる。癌で抑制される遺伝子のRNAは右下に現れる。こうして、肝臓癌で活性化されているすべての遺伝子をとらえることが可能となった。人体内のガン細胞の動態を分子レベルでとらえるという、長い間の医学者の夢が現実になりつつある。
多数のデータを多数の条件で比較すると新しい方法論が必要になる。システム生物医学ではクラスター解析という方法を用いる。たとえば、正常と、前癌状態と、癌という3群を比較して、正常で活性化している遺伝子のクラスター、前癌状態で活性化している遺伝子のクラスター、癌細胞で活性化している遺伝子のクラスターをわけることができる。
それぞれのクラスターの属する遺伝子は別々の調節制御をうける。沢山の遺伝子は覚えきれなくても、正常、前癌状態、癌細胞に特徴的な制御のされ方がわかればいい。システム生物医学は、調節制御の重なりから生命活動をみることにより、多数の因子を別個でなく系統的に筋道たてて理解することを重視する。そのための新たなデータ整理、視覚的にわかりやすくする可視化技術が必要になる。

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