1953年、ワトソンとクリックにより、DNAの基本構造が決定されてから、図序−2のように、「DNAがRNAを作り、RNAが蛋白を作る」ということが分子生物学の基本原理とされてきた。だが、それから50年たって、人間のゲノムが解読され、ゲノム配列のうち蛋白の情報はわずか2%程度で、その他の配列は遺伝子の調節や制御にかかわると考えられるようになってきた。
これをもとに、新たな基本原理が考えられている。実際には蛋白であるRNAポリメレースがDNAを鋳型にRNAを作る。作られたRNAは、スプライスオソームという複合体で、編集されてメッセンジャーRNA(mRNA)となり核をでる。多数の蛋白とRNAからなるリボゾームが、mRNAを鋳型としてアミノ酸から蛋白を作る。だが、どの遺伝子が活性化されるかをきめるのも蛋白である。そこでDNAが出発点で、蛋白が産物、というより、これらが一連のループを作っているというほうが生命の現実をよく反映している。
実例をクローン動物で挙げて見よう。クローン動物では、皮膚の細胞などから核をとりだし、核をのぞいてある受精卵に注入する。するとそれまで皮膚の細胞を作る情報を作り出していたDNAが、受精卵から胎児を作り出すために働く。そこでは遺伝子でなく周囲の細胞質の蛋白などの生体成分が、遺伝子を制御していることがよくわかる。
つまりここでは蛋白からDNAへ情報が流れている。そこで従来のDNA→RNA→蛋白というモデルから、DNA→RNA→蛋白→DNAというフィードバックをもったモデルに変わったのである。つまり一つの遺伝子(蛋白)の効果は他の遺伝子(蛋白)との相互作用を見なければわからない。
そこで図序−3のように、従来の遺伝的決定論にかわって、調節制御が重なりあったネットワーク論が生命のモデルと考えられるようになった。従来の遺伝的決定論では遺伝子の異常が病気の原因と考える。一方、システム生物医学では病気は調節制御のもっとも弱いところからおこると考える。そこでは遺伝子の異常で限られたものはメンデル型の病気の原因となるが、それ以外の多くは「隠れた効果」となり普段は、カバーされて症状はあらわれない。だが他の遺伝子の異常や、環境の変化(食事の変化、感染、紫外線など)があると調節系の中でもっとも弱い所で、カバーしきれなくなって、病気がおこる。たとえば、カロリー過剰を基礎としながら、肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症がおこり、「代謝症候群」という悪循環がおこる。
システム生物医学は、体の中になる様々な調節制御系を解析し、それらが重なりあって働くメカニズムを解析する。

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