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LSBMについて
序章
Omics入門
1.システム生物医学とはなにか
人間のゲノムの塩基配列が解読され、3万個の遺伝子があることが明らかになり、医学は大きな転換点を迎えた。人間のゲノムで、蛋白の配列をコードしているところは、全体の2%以下で、これまで何をしているかわからないと思われていたその他の大半の配列が、染色体の構造を作り遺伝子の働きを調節していることがわかってきた。
 3万個の遺伝子の作る蛋白は、他の遺伝子の活性化を調節し、こみいったネットワークを作っている。そこで1つの遺伝子の効果は、他の遺伝子の働きを制御してあらわれる場合も多い、そうすると、図序-1のように、遺伝子の働きはそれをみるだけではわからず、他の遺伝子との相互作用を見なければ理解できない。どうしても系統的に全体を見る医学と生物学が必要になる。




 これまでの医学では、遺伝子異常でも感染症でも、1つの原因をもとに病気を考える方法が基本であった。だが、今日の実際の患者さんの病気は、癌でも生活習慣病でも多数の遺伝子と多数の環境因子がかかわっていることがわかってきている。
 このシリーズは、ゲノム解読とともに生まれてきた人間の細胞や臓器での、DNAやRNAや蛋白を系統的に見ていくことから、人体の仕組みや、病気を考えていくOmicsとよばれる新しい学問を紹介するシリーズである。今日では情報科学が進歩し、ミクロ、ナノの技術をもとに、DNAの配列や、RNAの量、蛋白の種類を短い時間に、たくさん分析できる技術が次々と作られている。
 沢山の情報がでてくると、情報の山の中で迷子になってしまう。我々が覚えている常用や当用漢字でも3千個も覚えるのは大変な苦労だから、3万個の遺伝子の名前を覚えるだけでも大変である。さらに、DNAや蛋白という「分子」から「人体」の仕組みをときあかすのは大変なことである。
 そこで生まれたのが、ゲノミクス、プロテオミクスなどのomicsとよばれる生命情報を系統的に集め、解析する方法である。様々なomicsはバラバラにあるのでなく、それを統合したのがシステム生物医学である。  これからのシステム生物医学では、今までの「一対一の医学」から「多数対多数の医学」を扱うため、従来とことなるパラダイムを用いる。
 まず、3万個の遺伝子などをばらばらに理解するのでなく、DNA、RNA、蛋白の相互作用から、ダイナミックな調節制御の仕組みを分析していくことである。制御系の理解には、「いつ」という時間と、「どこで」という場所が重要になる。ここでは、従来の遺伝子の生まれついての遺伝的(静的)な変異を基礎としつつも、蛋白やRNAの動的(ダイナミック)な変動のフィードバック制御が中心になる。
 もう一つのパラダイムは、cell mapという細胞の系譜をもとに考える方法である。cell mapという細胞を扱う概念は1個の受精卵から生体をなすまでの細胞の系譜をおいかけたシドニー・ブレンナーらの線虫の研究から生み出された。人間の細胞の系譜の研究も、骨髄移植に始まる移植医療、再生医療から大きく進んでいる。 Cell mapの各段階ごとに、制御が変わって行くメカニズムが注目されている。同じ遺伝子の変異も異なった細胞では異なった結果をもたらす。
 このシリーズは、「cell map」と「多重的フィードバック制御」を2つの基本とするシステム生物医学の方法について紹介する。制御の破たんとしての病気のメカニズムを知り、再び調節制御がうまく働く、副作用のない有効な治療法を開発しようとする試みを紹介していこうと思う。

2005年6月に羊土社から刊行予定、許可なくして複製・転載を禁止します。