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2005.03.12

喫煙者の非小細胞肺癌に対する新規診断マーカーとしてのAKR1B10の同定

肺癌は近年最も頻度の高い癌のひとつとして、その診断および治療法の進歩が世界的に求められています。ところが、扁平上皮癌と腺癌は明白な組織学・疫学的な違いにも関わらす、「非小細胞肺癌」として同様に治療されているのが現状です。ゲノムサイエンス部門の福元らは、マイクロアレイ解析を用いて肺扁平上皮癌に特異的な診断・治療標的分子を探索し、Aldo-keto reductase family 1, member B10 (AKR1B10)を含む7遺伝子をその候補としてClinical Cancer Research誌の3月号に今回報告しました。
このうちAKR1B10に対しては、モノクローナル抗体を作成して蛋白レベルでも解析を行い、まず肺扁平上皮癌手術ペア検体に対するWestern Blot解析で癌組織特異的な発現亢進を確認しました。次に、101例の非小細胞肺癌に対する免疫組織化学的解析で肺扁平上皮癌32例中27例(84.4%)での陽性を確認しました。一方、意外なことに肺腺癌で65例中19例(29.2%)と陽性率が低くなかったことから多重回帰分析を行ったところ、非小細胞肺癌(p<0.01)及び肺腺癌(p<0.01)の両方において、喫煙がAKR1B10発現に影響を与える独立因子であることが示されました。興味深いことに前癌状態である扁平上皮化生や喫煙者の正常気管支でも観察され、この分子がタバコ関連発癌に直接関与している可能性も示唆されました。
肺癌の臨床研究の分野におけるパラドックスとして、ベータカロチンが予想に反して肺癌化学予防に無効なこと、そして驚くべきことに喫煙者に対しては逆に発癌率を上昇させることを報告したNEJM論文が有名です。ベータカロチンは本来レチナールを経て分化誘導作用のあるレチノイン酸に変換され癌化抑制に働くとされていますが、AKR1B10がレチナールをレチノールへ変換する酵素活性を有することが最近報告されたことから、AKR1B10の存在下ではレチノイン酸が低下する可能性があります。本研究の結果と併せて考えると、AKR1B10がこのパラドックスを解明する手がかりになる分子ではないかという期待が寄せられており、この分野における世界的な権威であるペンシルバニア大学医学部Trevor M. Penning教授も「興奮する結果」だと同号に掲載された解説記事の中で激賞しています。
肺扁平上皮癌と喫煙との疫学的な強い相関は以前から知られており、また一部の肺腺癌と喫煙との関連も想定されてはいましたが、喫煙と癌を直接結びつける特定の分子はこれまで知られていませんでした。本研究によりAKR1B10がその分子基盤を担う可能性が強く示唆された点が高い評価を受けた理由と考えられます。AKR1B10の喫煙者非小細胞肺癌に対する診断マーカーとしての可能性に加えて、化学予防や治療の標的としての可能性を評価するために、今後、発癌におけるその役割の解明が必要と思われます。

Fukumoto S-i, Yamauchi N, Moriguchi H, Hippo Y, Watanabe A, Shibahara J, Taniguchi H, Ishikawa S, Ito H, Yamamoto S, Iwanari H, Hironaka M, Ishikawa Y, Niki T, Sohara Y, Kodama T, Nishimura M, Fukayama M, Dosaka-Akita H, Aburatani H.
Overexpression of the Aldo-Keto Reductase Family Protein AKR1B10 Is Highly Correlated with Smokers’ Non-Small Cell Lung Carcinomas.
Clin Cancer Res. 2005 Mar 1;11(5):1776-85.

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